将棋Q&A

初タイトルを獲得すると調子を落とすは本当か?~タイトル奪取とレーティングの関係性~

こんにちは味噌人です。

皆さんは将棋界のタイトル戦にまつわるジンクス『初タイトルを獲得すると調子を落とす』というものを聞いたことはあるでしょうか?

調子を落とす理由としてよく挙げられるのが『タイトルを獲った安心感で気が緩む』『タイトルホルダーとしての普及活動などで研究の時間が取れなくなる』『タイトルホルダーとしてのプレッシャー』等もっともらしいものが並びますが、そもそも初タイトルを獲得した後には本当に調子を落とすのでしょうか??

今回はそんな疑問について、レーティングを用いて真偽のほどを分析していきたいと思います。

タイトルの重圧やタイトルホルダーとしての活動は本当に棋力に影響をおよぼすのか、是非ご覧ください!

初タイトル獲得前後のレーティング推移

レーティングとは

この記事の前提となるレーティングの基礎知識は『将棋棋士の実力を知るには①~順位戦、竜王戦、レーティングの話~』に記載してありますので、ご存じでない方はご一読ください。

初タイトル獲得前後のレーティング推移一覧

まずは2007年度以降の主な初タイトル獲得者と初戴冠を起点とした前後1年のレーティングの推移です。

後ほど一人ひとり数値を追いますので、これは参考程度にご覧ください。

次に初戴冠後1年のレーティングの推移です。

こちらはやや分かりやすくなっていますが、やはり参考程度にご覧頂けましたら幸いです。

初タイトルを獲得すると調子は落ちるのか?

ここからは個人ごとのタイトル獲得前後のレーティングの推移を見ていきます。

時点については分かりやすいように

  • 1年前
  • 半年前
  • 初戴冠時
  • 3か月後
  • 半年後
  • 1年後

の数値と初戴冠時とのレーティング差を記載し、そのあとに私の見解を加えておりますので、ご承知おきください。

佐藤天彦名人の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1869 -23
半年前 1904 +12
初戴冠 1892
3か月後 1908 +16
半年後 1929 +37
1年後 1877 -15

初戴冠後の調子

やや好調

所見

2016年の第74期名人戦において、羽生善治名人から名人位を奪取した佐藤天彦名人。

初戴冠時で『1892』と極めて高いレーティングを記録していたが、その後も好調をキープし半年後に大きくレーティングを上積みするなど不調とは無縁でした。

1年後こそ戴冠時からややレーティングを下げていますが、これは横歩バブルの終焉による所が大きいでしょう。

初戴冠後も順調にレーティングを伸ばしていること、その後も大きく数値を落としていない事から、初戴冠の影響により不調となったとは言えないと思われます。

高見泰地叡王の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1632 -118
半年前 1675 -75
初戴冠 1750
3か月後 1737 -13
半年後 1715 -35
1年後 1722 ー28

初戴冠後の調子

変わらず

所見

2018年の第3期叡王戦において、金井恒太六段との決勝七番勝負を制し初戴冠となった高見叡王。

初戴冠時の『1750』というレーティングを徐々に落とすなど、タイトル獲得後はやや不調という見方も出来ますが、タイトル獲得1年前のレーティングを見る限り、むしろタイトル奪取時に突出して好調であっただけとの見方が妥当だと思われます。

レーティングの下落幅も小さく、初戴冠の影響により不調となったとは言えないと思われます。

豊島将之棋聖の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1887 -4
半年前 1887 ー4
初戴冠 1891
3か月後 1871 -10
半年後 1883 ー8
9か月後 1891

初戴冠後の調子

変わらず

所見

2018年に羽生善治棋聖から棋聖位、また立て続けに菅井王位から王位を奪取した豊島将之二冠。

初戴冠時に『1891』と極めて高いレーティングを記録していましたが、その後もほぼ変動はありませんでした

1年後の数値がまだとれていないため、9か月後の数値で代替していますが、±0とレーティングに一切の変動がなく、また名人挑戦中であることからも初戴冠の影響による不調とは無縁だったといえます。

斎藤慎太郎王座の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1818 +15
半年前 1799 ー4
初戴冠 1803
1か月後 1834 +31
3か月後 1806 +3
半年後 1786 ー17

初戴冠後の調子

変わらず

所見

2018年の第66期王座戦において、中村太地王座から王座を奪取した斎藤慎太郎王座。

初戴冠時の『1803』というレーティングを連勝で大きく伸ばした後、やや調子を落としています

1年後の数値がまだとれていないため、1か月後の数値を参考として加えていますが、初戴冠後は好調であったことを考えると半年後レーティングをやや落としているとは言え、初戴冠の影響により不調となったとは言えないと思われます。

広瀬章人王位の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1690 -81
半年前 1723 ー48
初戴冠 1771
3か月後 1775 +4
半年後 1766 -5
1年後 1790 +19

初戴冠後の調子

変わらず

所見

2010年の第51期王位戦において、深浦王位から王位を奪取した広瀬章人王位。

初戴冠時の『1771』というレーティングは、その後1年を通してほぼ変動はありませんでした

よって、初戴冠の影響により不調となったとは言えないと思われます。

糸谷哲郎竜王の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1778 -81
半年前 1743 ー48
初戴冠 1804
3か月後 1801 -3
半年後 1786 -18
1年後 1786 -18

初戴冠後の調子

変わらず

所見

2014年の第27期竜王戦において、森内竜王から竜王を奪取した糸谷哲郎竜王。

初戴冠時の『1804』というレーティングを、その後僅かながら落としています

ただし、下げ幅が小さいこと、初戴冠後2か月間はレーティングを上げていたことから、微妙な所ではありますが初戴冠の影響により不調となったとは言えないと思われます。

菅井竜也王位の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1783 -80
半年前 1793 ー70
初戴冠 1863
3か月後 1804 ー59
半年後 1801 -62
1年後 1815 -48

初戴冠後の調子

不調

所見

2017年の王位戦において、羽生王位から王位を奪取した菅井王位。

初戴冠時の『1863』というレーティングを、一年間にわたり継続的に大きく落としています

初戴冠3ヶ月ほど前から好調期を迎えレーティングを大きく上げており、そのことから考えると高見叡王と同じく元の水準に戻っただけとの見方も可能ですが、初戴冠後に大きくレーティングを落としているのは事実です。

高見叡王とは異なりレーティングの下落幅も大きいことから、初戴冠の影響により不調となったとは言えます

中村太地王座の場合

レーティング推移

時点 レーティング 獲得時点比較
1年前 1732 -59
半年前 1741 ー50
初戴冠 1791
3か月後 1749 -42
半年後 1723 -68
1年後 1737 -54

初戴冠後の調子

不調

所見

2017年の王座戦において、羽生王座から奪取した中村王座。

初戴冠時の『1791』というレーティングを、一年間にわたり継続的に大きく落としています。

菅井王位の初戴冠時ととほぼ同じレーティングの推移が見られ、初戴冠3ヶ月ほど前から好調期を迎えレーティングを大きく上げており、そのことから考えると元の水準に戻っただけとの見方も可能ですが、初戴冠後に大きくレーティングを落としているのは事実です。

高見叡王とは異なりレーティングの下落幅も大きいことから、初戴冠の影響により不調となったとは言えます

まとめ

初タイトル獲得後には調子を落とすのか?
  • 直近8名の初戴冠のタイトルホルダーのうち、初タイトル獲得後に明確に不調となったのは2名
  • ただし、初戴冠前のレーティング推移を確認すると、タイトル獲得時に突出して好調であったことが分かる
  • よって、『初タイトル獲得後には調子を落とす』というジンクスには根拠がないといえる

皆様いかがだったでしょうか?

想像していた結果に近かった、全くはずれていた、色々な感想があるかとおもいます。

私の結論は『初タイトル獲得後には調子を落とすというジンクスには根拠がない』というものでしたが、レーティング推移や各棋戦での活躍具合、また初戴冠時の期待度からの乖離などを理由に『やはり初タイトル獲得後には調子を落とすんだな』とういう感想を持たれる方もいるかと思います。

その辺りは何をもって好調とするか見極めが難しい所なので、今後もデータ収集を行いより正しい結論を導き出したいと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました!

コメントなど頂けましたら幸いです。

それでは、また次の記事『【一番人気は何だ!?】150名が選んだ将棋囲い人気ランキング2019』でお会いしましょう!