将棋Q&A

将棋棋士の実力を知るには①~順位戦、竜王戦、レーティングの話~

こんにちは味噌人です。

皆さんはいま最も強い棋士といえば誰が思い浮かびますか?

棋界最高峰のタイトルを有する佐藤名人や広瀬竜王でしょうか?

複数のタイトルを持つ豊島二冠や渡辺二冠を思い浮かべる人もいるでしょう。

タイトルを失ったとはいえ長年棋界の頂点に君臨した羽生九段や将棋界のニュースターとして驚異的な勝率を誇る藤井聡太七段の名が思い浮かぶ方もいるかもしれません。

およそ将棋界に限らず、プロの世界において最も人の興味を引く話題は、誰が一番強いか?であることは疑いのようないところでしょう。

今回はその『強さ』=『実力』にスポットライトを当て、将棋界において『実力』を示す指標にはどのようなものがあるかを解説していきます。

8大タイトル

実力の指標と聞いて真っ先に思い浮かぶのが冒頭でも触れたタイトルでしょう。

将棋界にはその権威や賞金による決められた序列順に

  • 名人・竜王(同格のため同列に標記)
  • 叡王
  • 王位
  • 王座
  • 棋王
  • 王将
  • 棋聖

の8つのタイトルが存在し、8大タイトルと呼ばれています。

従来は7大タイトルでしたが昨年度から『叡王』が一般棋戦からタイトルに格上げされたことで、8大タイトルとなったことは記憶に新しいですね。

棋士を含む将棋関係者やファンの間でもその『実力』の指標として最も良く用いられるのがタイトルの有無、そして保有するタイトルの数です。

無冠より1冠、1冠より2冠、2冠より3冠の方が強いという非常にシンプルで分かりやすい理屈ですね。

ちなみに将棋棋士に対して年度ごとの功績を称える目的で日本将棋連盟から与えられる賞である『将棋大賞』において、もっとも優れた実績をあげた棋士を表彰する『最優秀棋士賞』。

この歴代受賞者を見ていくと『名人』や『竜王』といった序列の高いタイトルを一つだけ持つ棋士より、その時点で最も多くのタイトルを保有する棋士が選ばれる傾向があり、将棋界における実力の評価は『最も多くのタイトルを持つ棋士>序列の高いタイトルを持つ棋士』であるという証左になるかと考えます。

簡単なまとめ
  • 『タイトルの有無』が実力の指標として最も適している
  • 『最も多くのタイトルを持つ棋士』>『名人』『竜王』

このような事が言えますが、これだけではタイトルを有するトップ棋士の実力しか分かりません。

そこで、その他の指標も併せて見ていくことで、棋士間の実力関係をより鮮明に浮かび上がらせていきましょう。

順位戦

概要

サッカーなどのチームスポーツにおいては、その実力毎にリーグを分け、『J1>J2>J3』のような階層構造を取る総当たりのリーグ戦を行うシステムが広く浸透しています。

将棋界においても『名人』への挑戦権を賭けて、階層ごとに総当たり(もしくは規定の対局数)で戦うリーグ戦があります。

それが『順位戦』です。

順位戦は

  1. 名人
  2. A級(10名)
  3. B級1組(13名)
  4. B級2組(以下、定員なし。昨期24名)
  5. C級1組(昨期39名)
  6. C級2組(昨期49名)

の6層構造となっており、新しく棋士をなった者はC級2組からスタートします。(フリークラスに関しては別途専用の記事で取り上げます)

各階層毎に1年間にわたり既定数の対局を行い、C級2組からは上位3名が、C級1組以上では上位2名が翌年度上のクラスへ上がることが出来ます。

名人への挑戦権を得るにはA級で1位となる必要がありますので、C級2組から数えると挑戦まで最短で5年かかることとなりますね。

実力との関係性

このように階層構造を取ったうえで年間10局近くの対局を行うため、順位戦で〇級〇組に在籍しているかというのは大いに実力の指標となりえます

特にオールドファンや将棋関係者は順位戦のクラスを重視する傾向がありますが、これは元々プロ棋士が『名人と名人への挑戦者を決めるための順位戦を戦う者』という構図から始まったことに起因すると思われます。

ただし、順位戦を実力の指標とするには問題も多く存在します。

一例として順位戦の問題点を示すと

  1. 実力相当のクラスにあがるまで複数年かかる
  2. 下位のクラスは総当たりでないため不公平
  3. 昇級枠が少なすぎる
  4. 降級枠が少なすぎる

このような物があげられます。

実力相当のクラスにあがるまで複数年かかる

①に関しては、順位戦は飛び級が存在しないため、名人を超える実力を持っている新人が現れたとしても1年では名人挑戦が出来ず、C級2組からC級1組にあがるだけという問題があります。

実質名人を超える実力があっても、順位戦がC級2組だから下位プロだと言われても、本人もファンも納得しづらい所があるでしょう。

『藤井聡太七段はC級1組だからトッププロではない』

という理屈ですね。

しかし、実際には藤井聡太七段は誰もが認めるトップ棋士の一人であり、その意味で順位戦の制度では彼の実力を正しく評価できていないと言えます。

下位のクラスは総当たりでないため不公平

総当たりであるA級やB級1組ではその年度の実力がそのまま結果に反映されますが、B級2組以降は在籍人数が多く、総当たりでないため対局者の実力がバラバラであるという問題が発生します。

例えばC級1組で

1戦目:藤井聡太七段、2戦目:増田康宏六段、3戦目:佐々木勇気七段…

と強豪ばかりと当たることとなった場合、どれだけ実力があっても昇級は困難でしょう。

その意味で対局者によって昇級・降級が大きく左右される点も順位戦が実力を正確に反映できない理由の一つとなります。

昇級枠が少なすぎる

B級2組以下は定員がないため人数の増減があるのですが、最近はC級の人数が昇級枠に対して多くなりすぎているという問題があります。

昨期の状況でいえば

  • C級1組39名(昇級枠:2名)
  • C級2組49名(昇級枠:3名)

となっており、1割を切る少ない枠を巡って実力者がひしめいている状況です。

9勝1敗でも昇級できないこともあり、実力通りに昇級しにくいことが順位戦を実力の指標として使うことが難しい一因となっています。

降級枠が少なすぎる

順位戦はB級2組より下のクラスでは昇級と降級の条件が同じではありません

これは順位戦がベテランに優しいと言われる所以ですが、B級2組より下のクラスでは下位2名ないし3名が即降級ではなく、一定割合の成績下位者に降級点がつき、降級点が一定数つくと降級となるという仕組みをとっています。

降級点は成績によって消えることもあり、理屈上は1年調子が悪くても翌年調子を取り戻せば何年でも同じクラスに居続けることが出来るわけです。

もちろんこの制度は悪い事ばかりではありませんが、実際には下位の実力である棋士が上のクラスに残りやすくなっているのは確かであり、順位戦を実力の指標として使うことが難しい一因となっています。

まとめ

簡単なまとめ
  • 順位戦の在籍クラスは実力の目安となる
  • 長期的な実力を測ることが出来、指標として安定感がある
  • ただしクラス間の流動性が低く、実力がクラスに反映されるまで時間がかかる

 

竜王戦

概要

竜王戦は将棋界において最も賞金の高いタイトル戦であり、リーグ戦形式の順位戦とは異なり、スイス式トーナメントに類似したトーナメント形式をとっています。

将棋界において全棋士がどこかのクラスに在籍するシステムをとるのは『順位戦』と『竜王戦』だけなので、名人戦と竜王戦が他のタイトルとは別格であることが仕組みからもわかると思います。

竜王戦は竜王と頂点とし、その挑戦権かけて1組~6組のクラスに分かれ予選を行い、各組の予選通過者が本戦トーナメントに進出し、本戦トーナメント優勝者が挑戦権を得るという仕組みとなっています。

クラス分けこそされているものの、順位戦と違い一番下の6組在籍者でも一年の内に挑戦権を得ることが出来るというのが特徴です。

実力との関係性

竜王戦の特徴として

  1. クラス間の流動性が高い(各組昇級4名、降級4名)
  2. 短期の好不調を反映しすぎる
  3. クラスの安定には一定程度の年数が必要となる

という点が上げられます。

クラス間の流動性が高い

これは昇級枠と降級枠の多さから一目瞭然ですが、極めて風通しが良い仕組みとなっています。

順位戦でいう降級点のようなシステムもないため、ベテランが上の組で粘るという事も難しく、実力が在籍クラスに反映されやすいのは間違いないでしょう。

また6組在籍者でも挑戦者となれれば翌年1組以上が確定し、番勝負に勝てばもちろん竜王位を獲得できるという点も実力の指標としては優れた点です。

短期の好不調を反映しすぎる

一方で短期の好不調がダイレクトに組に反映されるため、実力者でも1組に残ることが難しかったり、たまたま時期的に調子が悪く上のクラスにあがれないという問題点もあります。

上のクラスでは2連勝で昇級する代わりに、2連敗で降級が決定するなど、実力の指標としては安定感にかけるのが欠点でしょうか。

クラスの安定には一定程度の年数が必要となる

これも藤井聡太七段を例に出しますが、順調に昇級を重ねている藤井七段もクラス自体はまだ4組です。

挑戦権を得られれば飛び級で1組、さらには竜王になることも出来ますが、通常のルートで昇級を重ねれば1組昇級まであと3年かかることとなり、その点クラスの安定には一定程度の年数が必要であると言えます。

まとめ

簡単なまとめ
  • 竜王戦の在籍クラスは実力の目安となる
  • 流動性が高く、比較的実力の反映が早い
  • 実力の指標として安定感のかける

レーティング

ここまでは将棋界においての最重要事項である『タイトル戦』とリンクした公式な指標を紹介してきましたが、非公式の指標であるレーティングについてもご紹介したいと思います。

概要

将棋界において利用される『レーティング』を簡単に説明すると、これまでの対局成績によって各棋士の実力を数値化したものです。

これまでにも『勝率』で各棋士の強さを図るというやり方はありましたが、『勝率』は対戦相手の強さが考慮されず、新人棋士が高くなり、タイトルホルダーのような予選を免除され強豪ばかりと当たる者は低くなるという欠点がありました。

そこで、対戦相手の強さを考慮した勝利確率に基づいて計算される指標である『レーティング』が発明されました。

まず対戦前の相互のレーティングに基づいて勝利確率(期待勝率)を計算し、これと実際の対戦結果との差異に基づいてレーティングを更新する。これを試合のたびに繰り返すことで、いずれレーティングが各プレイヤーの真の勝利確率、すなわち強さを表す適正な値に収束するというわけである。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』イロレーティング

こう書かれると複雑ですが、簡単に言うと将棋倶楽部24のシステムですね。

『強い相手に勝てば大きくレーティングがあがるが、弱い相手に勝ってもあまり上がらない』

というのが感覚的に分かりやすい説明かと思います。

実力との関係性

レーティングはいかのような特性があります。

  1. 実力がすぐに数値に反映される
  2. 試行回数が多ければ信頼性は高い
  3. 対局の重要性は反映されない
  4. 非公式であるため信用性が低い

実力がすぐに数値に反映される

再び藤井聡太七段を例に出しますが

  • 順位戦は下から2番目のC級1組
  • 竜王戦は下から3番目の4組
  • レーティングは全棋士中3番目(1位渡辺二冠、2位永瀬七段)

となっており、将棋関係者やファン的には藤井七段の実力は順位戦や竜王戦よりもレーティングが一番実態に近いと感じるのではないでしょうか?

私が引用しているレーティングサイトでは新人棋士は一律平均値である『1500』という数値から始まるため、この数値が変動しトップになるためには複数年必要ではありますが、それでも2年近くで頂点付近まで上り詰めることが出来ます。

このようにレーティングは実力を素早く数値に反映させることが出来ます。

試行回数が多ければ信頼性は高い

レーティングはあくまで対局者同士の相関関係の中で安定してくるため、一定程度の試行回数がないと安定しません。

将棋倶楽部24でも一定数の対局数までは注記付きのレーティングとなりますが、裏を返せば対局数が増えるにつれて信頼性の高い数値になっていくということです。

将棋棋士の年間対局数は多い棋士では60局、少ない棋士でも20局程度はあり、十分に安定的な指標になりうると思われます。

対局の重要性は反映されない

レーティングの一番の欠点は対局の重要性が一切反映されないということでしょう。

例えば

  • タイトル獲得をかけた最終局
  • 順位戦で1位昇級が決まった後の消化試合

この2局の重要性は考えるまでもなく前者が高く、前者はタイトルホルダーとなるかどうかの大一番、後者は負けたところでほとんど影響がない消化試合と、対局者の対局への取り組みも大きく異なってくるでしょう。

しかし、レーティングはそう言った周辺情報は一切考慮されず、事前の期待勝率と実際の対局結果を反映して数値化するだけなので、実績とレーティングとの間で乖離が発生しやすいという現象が生まれます。

2019年4月16日時点のレーティングでは

永瀬七段、藤井聡太七段>豊島二冠、広瀬竜王、佐藤名人

となりますが、タイトルを獲るために戦っている中、タイトルホルダーでない棋士の方が高く評価されることに違和感を覚える人は多いかと思います。

こういった矛盾が生じるのがレーティングの欠点ですね。

非公式であるため信用性が低い

これは将棋連盟がレーティングを採用すれば解決する問題ではありますが、現時点では非公式なんで仕方がないところです

まとめ

簡単なまとめ
  • レーティングは実力の指標として極めて優秀である
  • 実力の反映が早い
  • 実力の指標として安定感がある
  • 実績とレーティングとの間で乖離が発生しやすい
  • 非公式である

レーティングはどこで見られるのか

などのサイトで詳しくまとめられていますので、是非ご一読ください。

まとめ

 

総まとめ
  • 順位戦は流動性が低いが長期的な実力を反映する
  • 竜王戦は流動性が高く実力の反映は早いが安定性にかける
  • レーティングは非公式ながら実力を素早く、正確に反映する

こんなところでしょうか。

次回は各棋士の順位戦・竜王戦・レーティングの関係性を見ながら詳しく分析していきたいと思いますので、是非ご覧ください。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

コメントなど頂けましたら幸いです。

それでは次の記事『王将就位式レポートin東京ドームホテル~渡辺明王将と宗桂と~』でお会いしましょう!