将棋Q&A

プロ編入試験とは?将棋棋士になるためのもう一つの道~花村元司九段、瀬川晶司六段と今泉健司四段にみるその歴史~

こんにちは味噌人です。

本日は里見香奈女流五冠が資格を得る一歩手前まで迫っていることで、改めて注目を浴びているプロ編入試験について紹介していきたいと思います。

プロ編入試験のポイント

最初にプロ編入試験を理解しやすいようポイントを簡単にまとめてみます。(敬称略)

  1. これまでプロ編入試験を受けたのは『花村元司』『瀬川晶司』『今泉健司』の3人だけ
  2. 3人とも試験に合格しプロ入りを果たしている
  3. プロ編入試験が正式に制度化されたのは『瀬川晶司』が合格した後
  4. 『今泉健司』から現行と同じシステムでの試験形態となった
  5. 現在プロ編入試験に最も近いのが『里見香奈女流五冠』

これからこのポイントを細かく説明してきます。

プロ編入試験の歴史

第1回プロ編入試験『東海の鬼・真剣師』花村元司

プロ編入試験の歴史は古く、その初回はなんと太平洋戦争真っただ中の1944(昭和19年)まで遡ることとなります。

栄えある初代の受験者は、賭け将棋で稼ぐことを生業としていた元真剣師の花村元司アマ

花村アマは香落ち下手で升田幸三実力制第四代名人と指し分けるなど抜群の実力を示し、後援者からの推薦を受けたこともあり、1944年にプロ五段試験を受けることとなりました

花村アマはこの試験においてプロ棋士相手に六番勝負を行い、指し分けることで晴れてプロ編入試験合格者第一号となり、プロ五段として棋士となりました。

花村アマはその後、棋戦優勝3回、A級通算16期、名人を含むタイトル挑戦4期という一流の成績を残し、最終的には九段まで昇り詰めました。

第2回プロ編入試験『泣き虫しょったん』瀬川晶司

実績

プロ編入試験を受けることとなった二人目のアマチュア棋士は瀬川晶司アマ

瀬川アマは1970年生まれのいわゆる『羽生世代』と呼ばれる世代の一人で、21歳で奨励会三段リーグに入り、26歳で年齢制限により退会したあと、アマ名人やアマ王将を獲得するなどアマチュア棋戦で顕著な実績をあげ、多くのプロ棋戦への参加資格を得ました。

瀬川アマは参加したプロ棋戦でも多くの勝利を収め、特に銀河戦では3度予選を勝ち上がり決勝トーナメントに進出し、決勝トーナメントでも当時A級八段だった久保利明先生に勝利しベスト8入りを果たすなど、プロ顔負けの実績を残しました。

瀬川アマは上記の成績を含め、プロ相手に176敗という素晴らしい実績を手土産に2005年プロ入りの嘆願書を日本将棋連盟に提出しました。

当時の世論

私は当時大学生でまだ将棋には一切興味がありませんでしたが、そんな私でも記憶に残っているほど、このプロ入りの嘆願書問題は連日多くのテレビで取り上げられていました。

瀬川アマのプロ編入試験を求める世間の声は非常に大きく、恐らく多くの人が『タイトルを獲れそうな有望な若手が、ルートが違うというだけでプロ入りの道を閉ざされている』と勘違いしていたのではないでしょうか…というか、私や家族も完璧にそう思っていました。

『頭の固い将棋界のお偉いさん』VS『その旧弊に挑む瀬川アマと進歩的な支持者』という構図ですね…当時の日本将棋連盟会長は故・米長邦雄永世棋聖なので、盛り上げるために意図的にこういった構図を煽った可能性すらありますが(*_*)

まぁ、世間一般の方は奨励会なんて組織は当然知らないですし、瀬川アマの積み重ねた実績とプロになるチャンスすらないという不条理さだけがひたすらクローズアップされていた印象がありますね。この辺り当時からの将棋ファンの方とかなり感じ方が違うと思うので、他の方の意見も聞いてみたいところです。

そんな瀬川アマですが、圧倒的な実績とそれまでの苦労、そして何よりその人柄・人徳もあって、世間の声だけでなく多くのプロ棋士も編入試験に賛同し、結果全棋士の多数決で賛成が大多数(賛成129、反対52、白票8)となりフリークラス編入試験実施が認められました。

プロ編入試験

当時の米長会長により、瀬川アマはプロと6局指し、3勝3敗ならフリークラスの四段になれるという、プロ編入試験が行われることとなりました。

この時までは指し分け(半分勝てばOK)が条件なんですね。

連盟推薦で試験官となった6人は対局順に以下のとおり(段位は当時)

  1. 佐藤天彦三段 ✖
  2. 神吉宏充六段 〇
  3. 久保利明八段 ✖
  4. 中井広恵女流六段 〇
  5. 高野秀行五段 〇
  6. 長岡裕也四段 ―

編入試験はこの相手で行われ、特に第1局は公開対局として行われるなど、世間の耳目を集めることとなりました。

この辺りは棋界きっての天才仕掛け人である米長会長の商才のなせる業ですね。

瀬川アマは後に名人となる奨励会員佐藤天彦、A級棋士でリベンジに燃えていた久保八段にこそ敗北しましたが、神吉六段、中井女流六段に勝利を収め、高野五段戦に勝つことで編入試験に合格し、フリークラス編入という形でプロ入りを決めました。

瀬川アマのプロ入りの過程は書籍化や映像化もされていますので、興味がある方は当時の世相を知る意味でも一読することをおススメします。

プロ編入試験の制度化

なお、瀬川アマがプロ編入試験に合格した翌年の2006年にプロ編入制度が正式に決まりました。

第3回プロ編入試験『介護士からプロ棋士へ』今泉健司

プロ編入試験3人目の挑戦者は今泉アマ

今泉アマの棋士人生はある意味で瀬川アマよりも壮絶で、瀬川アマのプロ編入後に制度化された奨励会への再チャレンジ制度も含め、2度奨励会3段リーグを退会し、その後プロ編入試験を受け合格しプロとなりました。

1度目の奨励会退会

今泉アマは1973年生まれで、同学年の有名な棋士としては木村一基九段や三浦弘行九段、行方尚史八段らが挙げられます。

広島の出身で奨励会の同期としては関西・関東の所属こそ違いますが三浦弘行九段らがいます。奨励会三段リーグには1994年から在籍し、1999年に年齢制限により退会。

ちなみに1度目の奨励会時代の師匠は小林健二九段です。

三段編入試験と2度目の奨励会退会

奨励会を去った今泉アマはアマチュア棋戦で複数回優勝するなど顕著な成績をおさめ、2007年度より創設された奨励会三段編入試験にチャレンジし合格します。

これは主なアマチュア全国大会に優勝し、プロから推薦を受けたアマチュア棋士が奨励会三段への編入試験を受けられる制度で、現役奨励会二段と最大8局対局し6勝すれば三段に編入され、最長2年間三段リーグに在籍する参加できる資格を得ます。

これまで11名が受験していますが、この試験に合格し再び奨励会の門をくぐったのは今泉アマだけ

しかし、そんな2度目の挑戦も実を結ぶことなく、今泉アマは2度目の奨励会退会を経験することとなります。

ちなみに2度目の奨励会時代の師匠は『株主優待の桐谷さん』として有名な桐谷広人七段です。この辺りの顛末は著書である『介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました』に詳しく書いてありますので、是非ご一読ください。文句なしに面白い一冊です。

プロ編入試験とプロ入り

2度の奨励会退会を経験した今泉アマですが、介護士として働く傍ら昼休憩中に詰将棋を解くなど将棋への情熱はますます高まり、史上2人目となるアマタイトル大三冠(アマ竜王戦、アマ名人戦、朝日アマ名人戦)を達成するなど素晴らしい成績をおさめました。

竜王戦や朝日杯オープンなどでプロ棋士相手にも多くの勝利を収めたことで、対プロ棋士成績の良いとこどりで『10勝』かつ『勝率6割5分』というプロ編入試験条件を満たし、2014年に受験することを表明しました。

瀬川アマのプロ入り後に正式に制度化されたプロ編入試験は以下の条件で実施されました。

  • 棋士との5番勝負をして3勝すると合格
  • 合格後は四段としてフリークラスに編入
  • 5番勝負の試験官は新四段5名を棋士番号順に選出

ちなみにこの内容は現在も変わっていませんので、新しくプロ編入試験を受ける人は同等の条件で戦うこととなります。

今泉アマは再び桐谷広人七段を師匠としてプロ編入試験に挑み、2勝1敗となった第4局で石井健太郎四段に勝ち、プロ編入試験の合格を決めました。

  1. 宮本広志四段 〇
  2. 星野良生四段 〇
  3. 三枚堂達也四段
  4. 石井健太郎四段 〇
  5. 竹内雄悟四段

ちなみに41歳でのプロ入りは史上最年長

昨年度のNHK杯では史上最年長プロ入りの今泉四段が史上最年少プロ入りの藤井聡太七段に勝利し話題となりましたね。

まとめ

以上がプロ編入試験の歴史となっています。

正式に制度化されたのは2014年でその後の受験者は今泉四段だけとなりますが、もとをたどれば歴史のあるシステムであることがお分かりいただけたかと思います。

現在里見香奈女流五冠のプロ編入試験の可能性が話題となっていますが、注目していきたいですね!!

プロ編入試験の概要

最後に日本将棋連盟HPより現在のプロ編入試験の概要を抜粋して引用し記載しますので、ご覧ください。

公益社団法人日本将棋連盟 プロ編入試験規定

【試験日】申請受理月の2ヶ月後から開始、1ヶ月に1対局

【試験会場】原則として「東京・将棋会館」または「関西将棋会館」

【受験料】50万円(税別)

【受験資格】
・現在のプロ公式戦において、最も良いところから見て10勝以上、なおかつ6割5分以上の成績を収めたアマチュア・女流棋士の希望者
・四段以上の正会員の推薦のある者
【申請期間】受験資格の成績を得た後から1ヶ月以内
【試験内容】棋士との5番勝負(試験官は新四段5名を棋士番号順に選出)※持時間3時間※対局は将棋連盟の公式戦対局規定に準ずる※1局目に振り駒、以下5局まで先後交代

※5対局中3勝で合格、フリ―クラスへの編入資格を得る

※合格者は4月1日付または10月1日付で四段となる

次にプロ編入試験を受けるのは一体だれなのか??

今後も注目し、動きがあれば記事を書いていきたいと思います!!

本日も最後までお読みいただきありがとうございました!

コメントなど頂けましたら幸いです。

それでは、また次の記事でお会いしましょう!